「プロティアン:Protean」
校長 平田 理
一昨年には想像にも出来なかった新型感染症の世界的蔓延がもたらした影響は、私たちの予測や既定の枠組み、制度等をいとも簡単に崩しました。そして、この世界規模の危機に直面することで、私たち人間とって本当に必要なこと、大切なものが浮き彫りにされ、否が応でも考えさせられ、判断を迫られました。目前の危機や与えられた課題に対し、持てる能力や技術を駆使して行動を起こすことで、昨日までの自分を超える、変える姿勢が必要になったからです。しかし、誰もがその課題に挑戦して、新しい能力や技術を体得したり、問題を解決できたりする訳では無いことも事実です。この激変する時代を生きていくには、これまでとは異なった、どんな力が必要なのでしょうか。
「Protean:プロティアン(変幻自在)」という考え方があります。元来、キャリア教育で利用され、「変幻自在な」「多方面の」と訳される言葉です。同一組織内に長期間留まってステップアップするようなキャリア形成よりも、自己の成長や気付きといった心理的成功を目指す生き方です。(米心理学者Douglas T Hall(ダグラス・ホール)提唱)
ホール博士はこの生き方で大切になるのは、2つの能力だと言います。先ず、アイデンティティ(Identity):自分の価値観、趣味、能力、一生を通して抱き続ける自己概念。そして、アダプタビリティー(Adaptability):変化への適応スキルと適応モチベーション。言い換えれば、自分自身を過信したり、依存したりせずに、他者との共存的な関係性に於いても、変幻自在に自力を発揮できるように自分を整え、磨いていく生き方です。確かに、多くの課題や問題には、およそ自分では抗えない状況もあるでしょう。しかし、その克服できない点ばかりに囚われ、否定的な思考に陥るのではなく、自分でできることから適応させていく力、変幻自在のプロティアン思考が必要だというのです。
卒業式を間近に控え、卒業式の練習を連日行っています。チャペル入場では、一人ひとりが私と瞳を離さずゆっくりと行進します。その瞳の中に、子どもたちの成長を見ています。
6年生は、新型感染症の影響で最終学年の1年間を「忍耐」をもって過ごしてくれました。運動会もクリスマス礼拝も全学年での遠足も中止でした。沖縄修学旅行も中止になり、期間を短縮し、首都圏内での研修旅行となりました。6年生が主導する学校活動の機会も少なくなりました。それでも子どもたちは、難しい状況の中で最善を尽くそうとしてくれました。限られた中であっても実施できたことに感謝だと話してくれました。
これから先も未曽有の経験を余儀なくされることが起こることでしょう。しかし、いまこそ希望の光を見つめて歩んでほしいと思います。
「わたしたちは見えるものではなく、見えないものに目を注ぎます。見えるものは過ぎ去りますが、見えないものは永遠に存続するからです。」(コリントの信徒への手紙二 4章18節)
ラインホールド・ニーバー(Reinhold Niebuhr)が作った有名な詩があります(一部抜粋)。
・・・When I bloom ㏌ the place where God has placed me,
神様が植えられた場所で私が咲くとき、
My life becomes a beautiful flower ㏌ the garden of life.
私の人生は、いのちの園で咲く、美しい花になるのです。
Bloom where God has planted you.
神様が植えられた場所で咲きなさい。
自分ばかりの為ではなく、周囲にいる誰かを幸せにするように、精一杯に美しく咲くことで存在を輝かせなさいと勧めています。学び舎を巣立つ6年生は、単なる偶然や成り行き、因果関係から6年間を過ごしたのではありません。神様の意図とご計画のうちにありました。そしてそれぞれの個性を輝かせ、美しい花を咲かせてくれました。
子どもたちはこれからも、神様が植えられた場所で輝き続けると感謝をもって祈りながら、送り出したいと思います。
「あなたがたは世の光である。山の上にある町は、隠れることができない。また、ともし火をともして升の下に置く者はいない。燭台の上に置く。そうすれば、家の中のものすべてを照らすのである。そのように、あなたがたの光を人々の前に輝かしなさい。人々が、あなたがたの立派な行いを見て、あなたがたの天の父をあがめるようになるためである。」(マタイによる福音書5章14~16節)
学校紹介「校長挨拶」はこちらをご覧ください。