「デザイン Design」
校長 平田 理
今年は沖縄県の本土復帰50年という節目で多くの美術館で沖縄の芸術が展示されています。琉球王朝は14世紀ごろから朝貢貿易(中国)や中継貿易(東南アジア)で周辺諸国の文化や貴重品を多数流通させて繁栄していました。特に黒糖、芭蕉布、紅型、硫黄、陶器、漆器、螺鈿細工などは、薩摩の島津氏、江戸幕府の徳川氏への朝貢品としても納められ、関係改善に貢献しました。
しばらく前ですが、沖縄県大宜味村にある「喜如嘉」を尋ねたのは芭蕉布の美しさと糸を紡ぐ手の技を直に拝見するためでした。数百年間織られてきた芭蕉布は戦争で途絶えそうになりましたが、平良敏子さん(1921~2022 人間国宝)と地域の女性たち(友部:どぅしびぃ)によって甦り、現在では美術工芸品の領域です。材料となる糸芭蕉から育て、とてつもない時間をかけて紡がれる糸や染め、その作品は格別な美しさです。特に平良さんの手指が美しく素早く動く「苧績み(うーうみ:おうみ)」の「機結び:はたむすび」の手技はいつまでも眺めていられますし、「ただ偽りのない仕事をしたい」平良さん発案の「鳥」の図柄は今にも飛び立ちそうで、世界中のデザイナーから絶賛されています。
日本民芸館館長のプロダクト・デザイナーの深澤直人氏は「デザインは生き方です」とコメントしていますが、使徒パウロの言葉(エペソ 2:10 口語訳)を想い起こしました。
「わたしたちは神の作品であって、良い行いをするように、キリスト・イエスにあって造られたのである。神は、わたしたちが、良い行いをして日を過ごすようにと、あらかじめ備えて下さったのである。」
私たちは大量生産される製品とは異なり、ひとり一人が大切な「作品」であって、明確な目的「よいおこない」をする意匠だと言うのです。私たちには造り手の意図「よいおこない」をする生き方が求められているとも言えます。
平良さんは「偽りのない仕事」を続けられ、まさに「デザインは生き方」を実践され、9月に逝去されました。私たちには、多くの人々に影響を与えるような作品を残したり、手技を身に着けたりすることはできないかも知れませんが、「よいおこない」を心がけ「偽りのない時間」を紡ぐための小さな努力は出来そうです。
深澤直人氏:代表作 無印良品のキッチン家電、換気扇型の壁掛けCDプレーヤー等多数
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