「あなたの座る場所は?」
校長 平田 理
事故で手足3本を失い、障害等級1種1級である山田千紘さんは、義足での歩行時間が長いと疲労が蓄積し、足の凝りや張りから解放するために義足を外したくなるそうです。ですから、交通機関利用の際は、優先席が空いていれば座り、短時間であれば立ち、義足を履き直す場合などは優先席を利用しています。休日で短パン姿であれば義足であることは一目瞭然ですが、仕事の場合はスーツ姿で義足が隠れて身障者のようには見えません。
ある日、航空関連の職場に勤める山田さんが地下鉄で移動中、正面に座っていた女性から視線を感じつつ、優先席に座っていると、女性が立ち上がって「ここはあなたが座る席じゃない。違う席に移りなさい」と、注意を受けました。戸惑いながらも障害者手帳を見せ「身体障害の1種1級です」と丁寧に説明したところ、女性から電車内に響く大きな声で謝罪されたことがあったそうです。
優先席に座っていて気になる人に声をかけ、注意した女性の行動が素晴らしく、嬉しかったと、山田さんは述懐します。注意した相手がたまたま障害のある山田さんでしたが、この女性のような勇気と思いやりのある行動によって、優先席を本当に必要とする人が座れる機会が増えるでしょうし、優先席の役割を十分に果たすことになりそうです。山田さんは、優先席利用者への思いやりある「注意」に対して感謝を伝えました。
翻って、人は日常生活の中において気づかないうちに、「優先される」「損しない」立場を探す傾向があるのかも知れません。「優待」「優先」「優秀」人よりも優位に過ごせる場所や立場に価値を見出し、満足感や優越感を得ている場合もあります。自分に相応しくない位置や立場にも関わらず、そこに立ち続け、他者への関わりや問題から距離を保つために、敢えて「優劣」の比較に巻き込まれている可能性もあります。更には、他者の問題に関わることで「不利」になることを避けているのかも知れません。
聖書(フィリピの信徒への手紙2章3~5節)は『何事も利己心や虚栄心からするのではなく、へりくだって、互いに相手を自分よりも優れた者と考え、めいめい自分のことだけでなく、他人のことにも注意を払いなさい。互いにこのことを心がけなさい。それはキリスト・イエスにもみられるものです。』とイエス・キリストの謙遜の模範を示しています。
山田さんが電車内で体験した(「山田千紘のプラスを数える」)「あなたの座る場所は?」との投げかけに、俯瞰した視点や謙遜な心の在り方を失わないように、ひとり一人が応えたいものです。
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